• 徳増浩司のブログ (Blog by Koji Tokumasu)

沖縄の中1少女のミラクルストーリー

本欄でお声かけした「子どもたちのラグビーワールドカップ2019」。先日、沖縄の中1のラグビー少女のお話をお母様からメールをいただきましたので、そのまま転載させていただきます。この大会には日本各地でまだまだ紹介されていないエピソードがあります。

沖縄に住んでいる3姉妹を持つ母です。19歳になる長女がラグビーを始めたことをきっかけに下の2人の娘もラグビーをしています。今日は中1の娘の体験を書かせていただきたいと思います。長女がラグビーを始めた当初は女子ラグビーがまだあまり認識されていなく、きつい思いをしたこともありました。そんな様子を端からみていて、どうしてラグビーなんかを選んでしまったのだろうと親として、親として悔しい思いもたくさんしてきました。

ラグビーワールドカップが日本で開催されることが決まっても、沖縄が試合会場になるわけでもなく、ワールドカップと騒がれていても私たちには遠い存在のようでした。普段は男子と混じりラグビーをしているその娘たちも、それほど興味をもっていないようでした。

9月のある日、娘の通う中学の運動会の真っ最中一つのメールがありました。九州ラグビー協会普及育成委員長の森内先生からで、中1の娘が「熊本で開催されるフランス対トンガの試合で入場時に国旗をもつ役に推薦された」とのこと。あまりピンとした印象はなく運動会真っ最中だった事もあり慌てて連絡先を送信しました。

その後、何も連絡がないまま当日を迎え、沖縄から娘と二人で熊本の会場にむかいました。熊本は何度も訪れている土地なのに、会場が世界中の人があふれ異国の地にきたような異様な感覚でした。

会場に着いたら、なんと娘はその役に登録されていないことがわかりました。スタッフのみなさんが必死に連絡を取り合ってくださったのですが、私が誤った連絡先を送信していたことがわかり、母親である私の不覚だと気付きました。本部との行き違いも重なり、娘の役はすでに別なお子さんに決まっていました。会場に入れずがっくりしている娘の顔を見たら涙が出ました。せっかく、学校からみんなに送り出されて沖縄からやってきたのに。その時、スタッフのひとりが気転を利かしてくださり、特別に私たちの入場を許可してくれたのです。

国旗を持つ役やエスコート役の子は説明を受けキラキラしているのに私たちはまだ気持ちの切り替えができず、心は後悔に押しつぶされていました。それでも、スタッフのみなさんは娘に選手のロッカールームを見せてくれたり、まだ開場していない舞台裏を見せてくれたりと一生懸命に娘を喜ばせようとしてくれました。

娘もしだいに表情が明るくなり「お母さん。みんなこれから始まる試合のことで忙しいのに私に気をつかってくれて、私を喜ばせてくれて。もう充分だよ。こんな裏まで見れて幸せ。ありがとう。もう帰ろう」と言ったときです。外国人の女性スタッフが来て「今日はあなたに特別な魔法のプレゼントがあるよ」と試合のチケットを渡してくれたのです。「それだけじゃないのよ。今日はあなたは特別なの」と、よく訳がわからないまま案内されました。「あなたの役はこれからよ。VIPのプレゼンターになるのよ。わかるかな。今日の試合で1番に活躍した選手にトロフィーをプレゼントしてほしいの」。私たちには何が起きているかわかりませんでした。

やがて開場となり、いろいろなコスチュームを身にまとった世界中のサポーター、流れてくるファンファーレに目も心も奪われました。言葉も通じないけど、今隣合わせたサポーターに一緒に歌おう、一緒にウェーブしようと誘われ恥ずかしかったけれど、会場の雰囲気にのまれスタンディングオベーションも楽しくできました。

こんな満員の競技場を沖縄では見たこともなく、プレーのひとつひとつに観客が熱狂し熱い応援をしていることに私たちも自然に一緒に応援しました。フランスの選手にトロフィーを渡すときに降りたスタジアムを踏みしめたとき、体がじわっと熱くなりこみ上げてくるものがあったと、あとで娘が話していました。

観客の拍手、声援が鳴りやまないままトロフィーを渡すとき、何か言葉をかけなきゃと焦りと不安があったのに逆に選手から、「サンキュー」と声をかけていただき肩も組んでいただきました。わずかなあっという間の時間でした。

娘がプレゼンターを終え再び、客席についたらあちこちの席からサポーターが集まり、ハイタッチや、よくやったー!とねぎらいの声がいっぱい、いっぱい溢れました。スタッフも「いちばん輝いていたよ。今日のことでラグビーを嫌いにならないでね」と言われた娘が大泣きしました。

帰りは、お見送りのスタッフ全員がハイタッチをしてくれて、自然にありがとうと言葉がとめどなく出ました。沖縄へ帰省するさなか、娘が私にずっと話をしてくれました。

「お母さん、今日一日がこんなに長く感じたことなかったよ。朝、着いたら手違いで私が国旗の役ができないと知って、学校の先生からは感想を発表してねと言われたのにどうしょうと思ったよ。でも、スタッフのみんなが、私のことを一生懸命に笑わせてあげよう、喜ばせてあげようとしてくれてすごくうれしかった。スタッフは外国人も日本人もいて身振り手振りで私に気をつかってくれて。
試合も見せてくれ、プレゼンターという大役もやらせてくれた。本当にあっという間な役だったけど、いろいろな人たちが動いてくれて、いろいろな考えやいろいろなことを私に伝えてくれた。ラグビーをしていなきゃ知らなかったことばかり。お母さん、スタジアムに降りた瞬間にちがう空気を感じたよ。ちがう風が吹いたのをはっきり感じたよ。

「お母さん。夢はかなうんだね。私はラグビーの日本代表になりたくてなりたくて、ラグビーのために足も速くなりたいと、陸上もがんばってきたよ。ラグビーのために毎日練習もがんばってきた。いつかはこんなスタジアムに行きたいと思ったのに。こうしてかなうんだね。でもね、学校で発表することはね、私もラグビーのプレーヤーとして人を喜ばせる人間になりたいっていうこと。プレーのミスも、学校や生活でミスが起きた時も、それ以上にミスをフォローできる人になりたい。だって、今日お母さんのミスを誰も責めなかったでしょう。お母さんのミスがあったから今日こんな素晴らしい日を過ごせたの。私も今日のスタッフのような笑顔にかえてあげれる魔法使いになりたい。そして男子の試合でも文句言わずウォーターをするサポートできる人、どんな人にも魔法をかけて笑わせてあげれる人になりたい。そして必ず想いはかなう、夢を信じてがんばっていれば今日のような素敵な時間があるってことを伝えるんだ」

母親である私の不覚が起こしたことですが、会場にいらしたスタッフのみなさんのあたたかいお気持ちとご配慮で、魔法にかけていだき、素晴らしい特別なステージに立つことができました。ラグビーワールドカップ。本当に世界一の魔法がかかる夢のような世界でした。この大会が、想いは必ずかなう夢を貫くことの大切さ、まわりの人に喜びを与えるあたたかさ、それらすべてが幸せにつながる魔法の法則を親子ともに学びました。

今後ともラグビーを愛するこどもたちのために、ますますのご活躍を祈念いたします。
伊礼門 愛奈(母)