• 徳増浩司のブログ (Blog by Koji Tokumasu)

『スポーツ地域マネジメント』(原田宗彦・著)

原田宗彦氏(大阪体育大学学長)の『スポーツ地域マネジメント』(学芸出版社)を読みました。原田氏はこれまでも講演会などでも何度かご一緒させていただいたことがあるのですが、その先見性のあるメッセージで我が国スポーツ界を引っ張るオピニオンリーダーです。本書は「持続可能なまちづくりに向けた課題と戦略」という副題にあるように、スポーツを継続させるために、どう地域とコラボレーションしていくべきかという施策が豊富で具体的な例とともに挙げられています。

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本書に「イベント主催者からファン・参加者に向けた新しい価値と経験の創造」というトピックがあり、そこで使われていたのがラグビーワールドカップ2019の事例でした。

「ラグビー日本代表の活躍を通じて、(ラグビーの持つ)崇高な理念が具現化され、メディアを通じて国民に浸透していった事実は記憶に新しい。また、ボランティアによるハイタッチや、ファンゾーンの運営など、巧みな戦略で祝祭空間を形成する力を随所で見せつけた。50%に達した視聴率や、大会後のラグビーへの関心の高まりを考えた場合、ファン・参加者に向けた新しい価値と経験の創造、という点では大成句に終わったと言わざるを得ない」。

大成功に終わったラグビーワールドカップ。この部分を読んでいて、大会に関わった者として大変な嬉しさを感じるとともに、最近、自分たちが置かれている現実との間で若干、複雑な気持ちになりました。確かにあの大会は素晴らしかった、しかしどうしても、祭りのあと・・・的な気持ちになってしまいがちなのは、はたして新型コロナウイルスのせいだけなのだろうかと。

原田氏が本書を書き上げたのは昨年春のことでした。そこで、原田氏は「おわりに」の部分に特別なメッセージを追加しています。

「本書の執筆が終盤に差し掛かった2020年の初春、世界は未曾有の災害に見舞われた。今スポーツ界が関心を寄せているのは、コロナ後のスポーツを取り巻く環境の変貌である。中止や延期を迫られたスポーツイベントが、以前の状態に復活できるのかどうか、誰もが不安に感じている」。このように、執筆から一年後経った今なお私たちが持ち続けている不安を予見してきた原田氏。しかし、最後にこのように結んでいる。

「2020年に起きたパンデミックは、われわれの日々の生活にとって、スポーツ、文化、芸術などの”不要不急“なレジャーが、いかに貴重であるかを再認識する機会を与えてくれた。ワクチンの開発とともにやがて沈静化し、人々は元の生活を取り戻すかもしれない。人の動きが戻り、人と人が出合い、レジャーを楽しむ日常が戻った時、スポーツや文化、芸術の大切さが、以前にも増して認識されることを祈念したい」

原田氏の祈念するこの気持ちこそは、私達がいま、みんな共通して持っている実感です。私が本書を手に取ったのもこのところ「これから先、私たちはどこへ向かうのだろう」を悩む毎日であり、そのヒントを求めてのことでした。確かにこれからのスポーツ活動は、もっともっと地域と密接に連動していかなければ、持続していかない。しかし、具体的にはどうやって?新型コロナウイルス感染が起きる直前に書かれた本書だからこそ、より真理をついているとも言えます。原田氏の著書に多くのヒントをいただき、この現実を受け容れて、前に進みたい。