先日、本欄でご紹介させていただきました。ラグビースクールに通う岐阜の小6の男の子が、楽しみにしていたオールブラックス戦を台風で見ることができなくなって大泣きしたあと、それを自分なりにしっかり受け入れて立ち上がったというお母様からのメールでした。
この話をご紹介させていただいた直後から、昨日まで全国から十名を超える方からいろいろなありがたいお申し出があり、結果的には元日本代表の大西将太郎氏のご手配で本日の準々決勝「オールブラックス対アイルランド戦」を観戦するためにお母様とご本人が、東京スタジアムに行くことになりました。ジャパンの山田章仁さんもアクションを起こしてくださいました。
本日、私があらためてご紹介させていただきたいのは、お申し出をくださった全国のみなさまの気持ちと、それをすぐに受けたのではなく、最初は「自分だけが特別扱いされるのはよくない」と思い悩んだご本人とご家族のお気持ちです。
全部のお申し出を書くだけの余裕がありませんので、代表的なものをご紹介させていただき、最後にお母様からのお礼のメールを転載させていただきます。とても長い投稿となりますが、ご容赦ください。あらためてラグビーファミリーのつながりに感謝いたします。
(いただきましたお申し出の中から一部をご紹介します。ご本人様の確認が取れていないため、お名前は出さずに紹介させていただきます。またチケットを他者に譲渡することは規定上はできませんが、ここではそういうお申し出があったとご理解ください)
「はじめまして。立命館キャンパスでの徳増さんの講演にお邪魔したものです。小6のお子様の健気さに泣きそうになりました。なんとか私のチケット使ってもらえないでしょうか?準決勝2試合 オールブラックスの出るであろうカードを彼に見てもらいたいです。
私の一生に一度は十分です。私の冥途の土産はできました(開幕戦、アイルランド戦です)準決勝で上京しますが私はどこかのHUBかファンゾーンで観戦しますので、素敵なお母さまと健気なラガーにささげたいです」。
「東京にあるスクールで中学生を教えております。岐阜県の小6の男の子の話を読ませて頂き、非常に心を打たれました。 育成に携わるものとして、なんとか試合を観戦する機会を持たせてあげたいと思いました。 私は横浜での準決勝のチケットを2枚持っています。可能であれば、この少年とお母さんに、このチケットで試合を見て欲しいと思っています。 私と、もうラグビーをやめてしまった息子が観戦するよりも、この親子に見てもらった方が、ラグビーの未来につながると感じますし、この想いには、妻も息子も同意してくれています。 ぶしつけなお願いで申し訳ありませんが、よろしくお願い致しす」。
「 小6の少年の記事を読んで、家族会議を開きました。 家族4人分の準々決勝のチケットを持っておりますが、娘の分をお譲りしたいと思います。 娘も小6ですが、主人、息子、そして私ほどラグビーが好きというわけではありません。 それなのに準々決勝に娘が行き、この素晴らしい少年がオールブラックスの試合を観ることが出来ないという事がとても心苦しく、家族会議の結果です。どうか許されることならば、娘のチケットをこの少年に譲らせて頂きたいのです」。
「北海道協会の者です。山梨に居住しているバーバリアンズのメンバーから準々決勝のニュージーランド戦のチケットを2枚持っているので一緒に観戦できないだろうかと申し出がありました。旅費を含めて費用負担は当方で持ちますと事です。連絡していただくことはできますでしょうか?」。
「おはようございます。郡上の仲間でカンパをし、昨日届けました。 礼儀正しい少年でした。ホテル代とお土産代にはなるかと思います。 この度は、このような少年がいること知る機会いただき本当にありがとうございました。 都会にいても地方にいても子供たちが夢をかなえることができる場を大人たちが作っていかないと日本の未来はないと改めて感じました」。
(最後に、お母様からのお礼のメールを転載させていただきます)
「この度は、息子の想いを受け止めてくださり、皆さんに共有していただけるという思いがけない出来事もあり、感謝の言葉もありません。 思えば、中止が決まったあの日、泣きながらも気持ちを切り替え現実を受け入れようとした息子に、救済を求めていたのは私自身だったのかもしれません。
徳増さんの事をよく知らないまま、ラグビーを通して育成に関わる方なら息子の気持ちを共有してもらえるかもしれないと思い、すがるようにメールしました。 メールがコラムによって発信されたことで、たくさんの方々の温かい言葉に触れ、こんなにも受け入れてくれる方がいることにただただ驚き、感激しました。
息子に一つ一つ見せ、一つ一つ見るたびに目をクルクルさせ、気持ちがどんどん前向きなっていくようでした。 そんな中、ご自分のチケットを譲りたい、なんとか息子に試合を見せたい、と徳増さんに複数の方から問い合わせがあった事を知り、なんという事かと驚き言葉を失いました。 もちろん、息子にとってはこの上ないお申し出でした。
でも、息子にその事を話すと、(大きな台風災害で釜石開催も無くなり)「試合を観れなかったのは僕だけやない」「遠くから来ても観れんかった人がおる」「そのチケットも本当は自分が観たくて手に入れたもの」「僕だけ特別扱いはあかん」と言っていました。 その一方で、息子に見ず知らずの方々から届いた温かい気持ちにどうやってお応えしたら良いのか、私もとても迷いました。 私は息子に「こうやって自分のチケットを使ってくださいと言ってくれている人達がいるけど、これはただのチケットやないよ。これにはその人達それぞれのワールドカップへの想いがあるんやよ。そこをよく考えなさい」と話し、息子の答えを待つ事にしました。
顔を隠してうつ伏せになり、一言も喋らない息子の様子を見ていましたが、答えは出そうにありません。もちろんです。 私は息子にラグビースクールを紹介してくれた知人に相談しました。その方から「甘えていいんじゃないか。○○(息子)に感動してる人の善意。そんなん子供の時に感じれたら大きな財産になるよ」と言われ、「もしかしたら、12歳のこの時期に、こういうお申し出を受ける事はワールドカップ以上に息子とって生涯を通してかけがえのない経験になるかもしれない。息子にとってこの先得ることの出来ないプラスの影響を与えるかもしれない」とも考えました。
徳増さんに届いた、数人の方のお申し出を息子と一緒に読み返し、私は「あんたが行きたい気持ちはよーく分かるよ。でも、これはやっぱりお断りしよう」と、これが私の答えでした。「あんたはまだ若い。これからチャンスはたくさんあるから。誰かの大切なチケットで試合を観たところで心から楽しめるかな」と。そう話しました。
そんな矢先、徳増さんから連絡をいただき、大西将太郎さんからの申し出がある事を聞きました。 再度 息子と話し合い、なんとかしてあげたいと言う全国の皆さんの気持ちと、大西さんの気持ちを伝えました。
「僕だけ特別扱いはあかん」と言っていた息子、その一方で「もしチャンスがあるなら試合を観たい」という気持ち。この二日、両方に激しく揺れ動いた息子の心に着地点が見えたようでした。 「あんたに共感してくれた沢山の人、何とかしようと連絡を入れてくれた人、そして試合が観れなかった15万余りのラグビーファン、その人達みーんなの想いを背負って観に行く覚悟しなかん。できる?」との問いかけに目を見開いて大きく頷きました。 あとは、私に出来る事は息子の背中を押すことだけです。
今回の事を通し、たくさんの方の優しく温かい心に触れ、素晴らしい出会いがあり、息子のみならず、私の人生にも大きな財産ができました。もう感謝の気持ちをどう表して良いのか分かりません。本当に本当にありがとうございます。 ラグビーの発展、それを通じての世界の子供たちの健やかな成長、心から祈っております」