写真は『ラグビー・コーチングウイークリー』にあった記事で、このタイトルに引き付けられました。
「教えることをやめて、学ばせてみよう」――たしかにそうだと思うし、言うのは簡単だ。しかし、実際にグラウンドに立ってみるとこれほど難しい命題はないと思います。
1月から2月にかけて桜美林高校を指導していたとき、私も「教える」のではなく、「学ばせる」「考えさせる」プレーをさせたいとは思っていました。しかし、2年生が4人、1年生が13人という部員構成で、経験者はひとりだけ。しかもバックスは全員1年生、となるとまずはハーフ団あたりからひとつずつ作り上げていかなければならないと思いました。
3月までの限定で、週1回程度なので、早く練習の成果を出そうすると、ついつい教え急いでしまいます。本来なら、紅白戦でミニゲームをやって「今どこかうまくいかなかったか、チームミーティングやってみんなで考えてみよう!」と、トライ&エラーから自然に学ばせる・・・これが本来やりたい方法なのですが、限られた時間となると、まずは、教え込むことが優先されます。ハーフはこう、スタンドオフはこう、タックルはこうという基本的な動きをひとつひとつ教えることに終始してしまいがちです。
冒頭に「教えることをやめて、学ばせてみよう」という記事を書いたサイモン・ネインビー氏はこの両者のアプローチを次のように表現しています。つまり、教える方法を「直接学習」。学ばせる方法を「間接学習」という。直接学習は「言葉にできる」が、間接学習は「言葉による指導はほとんどない」という。これをヒントに自分のコーチングを振り返ってみると、確かに私のこれまでの方法は、どちらかというと「間接学習」(言葉がほとんどない)部類に入ることがわかりました。
私のコーチングはいつも「とにかくやってごらん」で始まり、うまくいくと「Good!」という声掛けをする。それの繰り返しです。そのうちに少しずつ問題点を指摘して修正していくのですが、それは「本人に気づかせる」ためのガイドラインのような声かけで、ひとつの正解ではありません。ネインビー氏は「間接学習の導入はコーチにとって、創造性への挑戦になる」とも言っています。
ある時、私はあるコーチの指導法を見学したことがありますが、彼は、ハーフのパスを教えるのにも、足を開く角度から重心のかけ方まで実にマクロの世界で教える言葉を豊富に持っていました。残念ながら私にはそこまでの詳細の指導はできないと思いました。(これはある意味、スキルの指導ではなくテクニック(技術)の指導なのでやむを得ない部分かもしれませんが)。私には「こうあってほしい」という、全体イメージはあるのですが、細かいディテールが弱いことにも気が付かされました。どちらも大切なアプローチだと思います。
そして、サイモン・ネインビー氏の記事の2枚目の写真(下)を読んで私は納得しました。一人のコーチは「体を反転させて両手を上に」と言っているのに、もう一人の「間接学習」のコーチは「好きなようにプレーしてみて」と言っている。これこそはまさに私の姿だと思いました。
「学ばせる」「発見させる」というコーチングには時間はかかるが一人一人の個性や持ち味を活かすことができます。ネインビー氏も「身長、体重、四肢の長さなどが違えば、プレーヤーのスキルの使い方は変わってくる」と言っており、全く同感です。だからこそ、できれば自分で発見、発明してほしい。しかし、実際にグラウンドに行くとすぐに教えたくなるのも事実。このバランスをどう取るか。コーチングとはひとりひとりのコーチの個性であり、コーチが10人いればやり方も10人違います。私もいろいろなコーチのやり方から学んでいきたいと思いました。
(写真は『ラグビー・コーチングウィークリー』(ジャパンライム株式会社)より)