スタジアムの興奮にはいろいろな要素がありますが、私は両チームの選手が入場する前に和太鼓の演奏が始まると、ドキドキしていてもたってもいられない気持ちにさせられました。あの演出は最高だったと思います。
最初のころは、気がつかなかったのですが、和太鼓の演奏が始まったあと、選手の入場に合わせて和旋律を持った入場BGMがかかりますが、この二つの音が、きれいにシンクロしていました。つまり、最初に生演奏があり、そこに録音されたBGMがかぶさる感じになるのですが、あるときから「どうやってタイミングを合わせているんだろう」と不思議になりました。
生演奏と音源が同時に響くという高度な演出。太鼓の音を聞きながら演出担当者がどこかのタイミングで「スイッチオン!」してシンクロさせているのだろうと想像していました。
しかし、大会開催中はそんなことを究明する余裕もなかったので、この機会に、入場セレモニーを担当した二人のキーパーソンにお聞きすることにしました。
ひとりは、組織委員会で会場運営局のセレモニー部長をしていた熊谷聡さん。スポーツプレゼンテーション業務やアイスショーの主催などをする株式会社CICから組織委員会に出向した方です。
熊谷さんにお話を聞きました。
「私が組織委員会に入ったのは2017年4月ですが、心に決めていたのは「日本文化に舵を切りきったエンターテインメントを作る」ということでした。アジアで、そして日本で初めての開催となるラグビーワールドカップには、開催国の独自の文化の発出こそ相応しく、これは過去の大会でも開催国の文化が色濃く表現されていました。
演出の大きな方向性として重要と考えたのが、国際大会を彩るエンターテインメントである以上「海外から見てクールと思える日本文化であり、何より開催国の日本人が見ても心打たれるものであるべきもの」が相応しいのではないか、ということです。ここを出発点に、各種演出項目の作成に移行していきます。
そのため、私たちと一緒に演出を作り上げていく専門家集団を決めるにあたり、提案依頼書に「日本文化、伝統、テクノロジーなどを表現し、日本のラグビー文化を世界に発信することを大会の目標と考える」という文言を盛り込みました。そして私たちの理念に合致する団体として選ばれたのが、電通とオーストラリアのGreat Big Eventsとの合同チームでした」。
このような長い取り組みの中で進められてきた場内演出でした。では、組織委員会からのパスを受けて、現場でどうやってミュージシャンや音楽素材を決めて運営したのか?ここから先は、電通・グローバルスポーツ局の伊藤 克成さんに語っていただくのですが、原稿が長くなるので、後半は次回に!私の今までの謎がやっと解かれます。