ラグビーワールドカップ2019日本開催の盛り上がりを受け、いま全国のラグビースクールでは入会を希望する子どもたちが急増しています。「ラグビーワールドカップをラグビーの普及につなげる」―これこそは、日本協会が16年前に大会を招致した目的のひとつなので、やっとその時がやってきました。たとえば、杉並ラグビースクールでは明日10日(日)の体験会になんと200名の申し込みがあるそうです。私が会長を務めている「渋谷インターナショナルラグビークラブ」でも、明日は20名の新規体験の子どもたちがやってきます。まさに競技人口拡大のための千載一遇のチャンスです。
2年前にクラブを作ったときには、会員数も100名ぐらいまでだと、子どもたちひとりひとりの顔と名前をなんとか覚えられるし、コーチングのレベルを一定の数に保ちやすいと考えました。しかし、もはやそうも言っていられない状態。私たちのクラブも会員数は140人を越えました。こうなってくると、まずは練習会場のスペースの確保、そして次にコーチングのレベル合わせなどの課題も同時に発生してきますが、何とか工夫して解決していきたいと思います。同様の課題は、都内のラグビースクール関係者からもお聞きしています。
スクールへの入会もさることながら、もっと日常的に子どもたちの生活の中にラグビー(的要素)を取り入れる環境づくりも大切です。一番手っ取り早いのは、小さなラグビーボール、または楕円形のスポンジボールのようなものが、学校の校庭や公園に常にあるような状態です。子どもたちが自然にラグビー的な遊びをする。とにかく楕円形のボールさえあれば、ラグビーの真似事はできます。普及のスタートはそこからだと思います。この“ボール配布作戦”は、これまでにもいろいろな方が提唱していますが、なかなか明確な形では実現していません。
ラグビーはサッカーなどに比べるとやや「敷居の高い」スポーツです。きちんとやろうとするとヘッドギヤやマウスピースも用意し、コンタクトの導入も少しずつやっていく必要があります。しかし「遊びのラグビー」だと、抜き合いや鬼ごっこの延長として、気楽に参加できます。各地で行われているタグ教室なども、これと同じ考え方だと思います。
ラグビーの普及にもう一つ大切なヒントがあります。以前、平日の放課後にブリティシュスクール東京に行ったとき、当クラブでラグビーをしている中学生がトランペットを持っていました。「君は音楽もやるの?」と聞いたら、同校のオーケストラ部に所属しているとのこと。そこで、さっそく練習を見学したのですが、ゆったりとした楽しい練習でした。顧問のサイモン先生によると「練習は週1回、1時間半です」ですよ。「この年代の子たちはほかにもやりたいことがたくさんあるので、それ以上は拘束すべきではないんですよ」と教えてくれました。
スポーツの世界では、日本代表の活躍に見られたように、常に上をめざし、ハイレベルなアスリートへ向かう道は大切です。しかしそれと同時に、普通の子たちが気楽にスポーツに参加できる環境、ほかのいろいろな活動と並行して、スポーツにゆったり楽しめる環境を作っていくことも大切だと思いました。また、私自身は、これからは運動嫌いの子や運動の不得意な子が楽しめるようなプログラムを取り入れたいとと考えています。これもスポーツのダイバーシティー(多様化)のひとつだと思います。他スクールのみなさんからも何かヒントがあれば、ぜひ教えていただきたいと思います。