前回は「教えるか、学ばせるか」というテーマで、サイモン・ネイビー氏の記事から「直接学習」「間接学習」という表現で、両者のアプローチを比較しました。ネイビー氏は、直接学習の問題点として「コーチからの説明が多すぎたり、プレーヤーが自分のパフォーマンスをビデオで見たり、分析しすぎて情報過多になると、それだけで息が詰まってしまう」と警鐘を鳴らしています。それに対して、間接学習の方が「スキル習得には時間がかかるが、自由度が高いので安定していて、試合のプレッシャーに耐えうるものだ」ともしています。
私はこの違いを自分なりの表現で、「“言葉”で教えるか、“空気”で学ぶか」と考えています。コーチングで大切なことは、「プレーヤーがそのスキルを自分で学べるような空気(環境)づくりをする」ことだと思います。その空気の中からから自分の力で、”生き残る方法“としてスキルを学び取っていくことが理想です。
この方法を実践ためには、コーチには3つのことが必要になります。ひとつは、プレーヤーをそうさせるための環境(空気)づくり。自由度がある練習メニューをふだんから考えておくことです。「こうしなければダメ」ではなく「いろいろ試せる」オプションのある練習メニュー(具体的なメニューはこの連載の中で順次、挙げていきたいと思います)。ここでカギになるのは練習の空気です。この練習は楽しそうだーと思える、明るく楽しく元気な空気。コーチはまず、その明るい空気を作ることを心がけましょう。
2つ目に大切なことは、プレーヤーがいいプレーをしたらすぐに「いいね!」とか「Good!」と声をかけること。このタイミングはとても大切です。これがないと、コーチングではなく、ただの練習遊びになってしまいます。コーチの反応で子どもたちは自分の選んだオプションが正しかったと自信を持ち、楽しいと感じることができます。「いいプレーは一瞬も見逃さないぞ」・・・親が運動会で自分のこどものシャッターチャンスを逃さないような熱い思いがコーチには必要です。
そして3番目。これが一番難しいのですが、そのプレーヤーが明らかに間違ったプレーをしていた場合にも、すぐ声をかけるということです。たとえば、タックルで頭の位置が反対側に入るる逆ヘッドなどです。明らかに間違っているという部分は、コーチが修正しなければなりません。
それに比べ、ゆるやかに指摘した方がいいものもあります。たとえば「あとワンテンポ早くパスすればよかったのに」とか「あの場面は、右に一人余っていたのに」とかのアドバイスは、自分たちのチームに与えられた時間やプレーヤーの成長度を見て順次行います。あまり練習時間がないチームの場合には、コーチが細かく指摘することはやむを得ないでしょう。ただ、これも指摘のしすぎは頭を混乱させるので、いくつかの典型的な例を取り出して説明することがいいでしょう。冒頭で私は、「言葉で教えるか、空気で学ぶか」と書きましたが、「言葉で教えるか、体験で学ぶか」の方が正確かもしれませんね。
このように考えると「学ばせる」アプローチをするためには、まずコーチの頭の中に「学んでほしい」項目と「させてはならない」項目がしっかりと把握されていることが基本です。つまり自分の中の判断基準をしっかり持っていて、それを練習中に発見できるだけの「目」(観察眼)が必要です。プレーヤーに自由にオプションを選ばせながら「Good」、悪ければ「Bad」と評価する。その一歩先には、プレーヤー自身が自分の力で判断できるようになるワンランク上の姿が待っているはずです。(次回は「個性を活かすコーチング」について書いてみます)